カンボジアの戦慄(細川美智子/井川一久)
ポル・ポット政権下のカンボジアに残留し、赤色クメールの大虐殺から逃れ、息子二人と共に自力でベトナムへ逃れた日本人妻・細川美智子さんの体験記を、井川一久氏と共に記したもの。
井川氏による「まえがき」に、「この書は、『生存そのものが奇跡だった』という彼女の、日本人女性としては空前絶後ともいうべき恐怖の思い出に満ちた体験の記録である。」とあります。が、筆調はあくまで冷静。常に第三者的とも言える、冷めた視線での日常観察記録になっています。夫が「整理」された記述も、息子が「遠征」に借り出された記述も、主観的な感情表現をギリギリまでそぎ落としたような、淡々とした文体で綴られているのです。これは、感情さえも支配しようとしたポル・ポット政権の成果(?)の一つなのでしょうか? そして、その冷めた視線が、より一層ポル・ポット政権とオンカーへのメッセージを強く伝えているようにも感じ取れます。
細川さんの身に付けた「哲学」に、「人間は自由を必要とする。自由の中にこそ平等もあるのだ。自由がなければ生きられないという一点で、人間はほかの動物とは違っている。」という一文があります。考える自由、話す自由、笑う自由、泣く自由、怒る自由・・・。「自由」を思うまま享受できている己の足元を、今一度見つめなおさなければいならないと、心の底から感じました。
