ストーリー・セラー(有川浩)
収録作品
Side:A
Side:B
アンソロジー「Story Seller 」(新潮文庫)に収録されている「ストーリー・セラー」(=Side:A)に、同じテーマで描き下ろしたSide:Bを合わせて刊行された書籍。
どちらも、小説家の妻とその夫の物語。二人の出逢いから、どちらかが病に斃れ最期の日を迎えるまでの(鬱陶しいほど)濃密な時間が綴られています。おそらく、小説家の妻は作者自身が投影されているのでしょうね。と、すると、当然、夫も作者の夫なのでしょう。そして、両編とも、「どこまでが本当なのか?」と読者を煙に巻いて終わっているのです。これを遊び心にあふれているととるか、私情垂れ流しの自己満足ととるかは、読み手次第ってことなのでしょう。
どうせ読むならば楽しく読みたい主義の私は、当然の前者の「遊び心」を選択。多少同人誌的なストーリー展開はこの作者の持ち味ですしね。深く理解しあった夫婦二人だけの世界での凝縮された時間は、それはそれで当事者にとっては比類ない時間なのでしょうし。それを覗き見するタノシミなんて、そうそう味わえないものでしょうから。
キケン(有川浩)
好き嫌いのきっぱり別れる作品だとは思いますが、私は好きですねぇ。学生時代をリアルに思い出します。美術系の女子大ではありましたが、学部的に泊まり込み実習(?)が必須だったもので…(笑)。サークルではなくゼミの思い出ですけれどね。全体としてはいわゆるお嬢様学校に入るタイプの大学であったにも関わらず、なぜか私の学部だけが男子校顔負けのバンカラ(古…)。楽しかったなー。さすがに、爆発物系には走りませんでしたが、徹夜続きのハイテンションのまま全身ボディペインティング大会にもつれ込んだり、トイレの便器を‘美しく’彩ってみたり。キャンパスを歩いていても、私の学部の学生だけが目立って異邦人でしたから。そりゃ、ワンレンボディコン(そういう時代でした・笑)のお嬢様集団の中に、作業着代わりの白衣の背中に極彩色の抽象画を背負い、絵の具や染料の臭気を漂わせていれば、嫌でも目立ちますって。
などという思い出が次々に浮かんでくるような作品でした。そして、私も卒業以来、大学には行ったことがありません。この「キケン」のようなラストは、夢の理想形ですよね。そうであったら良いなぁと思いつつ、きっと、もう二度と大学へ足を向けることはないでしょう。
卒業してから長い人の方が楽しめる一冊だと思います。思い出を美化して、願望も込めて。
フリーター、家を買う。(有川浩)
映像版は未見。
第一印象としては…、タイトルに違和感アリ、です^^; だって「家を買う」ことよりも、前半は母親の鬱病関連物語、後半は主人公の再就職大成功物語、なんですもん。「家を買う」は…、最後にとってつけたようにお引越しして、家族の修復傾向を喜んで、主人公の恋愛模様にドキドキしながら、明るい明日へ向かって行こう!…な感じで。まぁ、多少(どころではないけれど)上手くいきすぎではありますが、楽しく読めたのでそれはそれでOK。ちょっとタイトルがね…ということだけです。
そして、主人公の父親が…私の父親そのもので苦笑いしっぱなしでございましたよ。誠治くん、とりあえず、父親に期待しないことですな。あの性格は治りません! ちょっとは改善するかもしれないけれど、基本的には治りませんよ。
植物図鑑(有川浩)
相変わらず、恋愛少女マンガ(もちろんハッピーエンド!)をいちいち文章にしたような物語です(笑)。私もこんな犬(?)なら拾ってみたいぞ。そして、一種のグルメ本でもある…かな。何しろ、主人公のカップルが野草を狩りまくって、その戦利品で料理をして、「おいしいねー」と言い合う話でもありますから。考え込むことなく、サラリと読んで、幸せ気分に浸るのが正解でしょうね。
登場する野草を、お買いものルートに探してみたくなってしまいました。
シアター!(有川浩)
観劇を趣味とする身としましては、絶対に読んでおかなければならない一冊でしょう! 解散の危機に直面した小劇団の立て直し物語…だけど、そんなに単純じゃない!!
‘観る’側専門の私だからこそ気になる劇団の内情…ってヤツでですよね〜。あぁ、そうだろうね、社会適応度は限りなくゼロに近いだろうねぇ、とか、金銭感覚もゼロだろうねぇ、とか…。でもね、小劇団観劇を続けていると思うのです。仲良しクラブ劇団の作品には飽きがくる!と。やはり、芝居観せてお金を取るからには、芝居に関してはプロでいてくれなければ。そうでなくては、応援するかいもないし、ワクワクする気持ちも失せてしまいます。やるからには全力で! それが演劇ファンの願いなのですよ。がんばれ!
揚州の幻伎(岡本好古)
収録作品
揚州の幻伎
絹本の胡姫
収録作品二作とも、幻の女性に恋い焦がれた挙句、唐代の中国からはるかインド、イスラムまで旅してしまうという、壮大にロマンティックな物語です。そして、対象が幻の女性であるがために、結果的にもなんとも切ないロマンに満ち満ちているわけです。特に「絹本の胡姫」に登場する、胡姫と戦士の物語と美香と吐猿の物語が重なっていくあたりなんて、本当にため息をつきたくなるぐらい美しく切なくロマンティック。きっと、美香の肖像画を廻って、また物語が生まれるのだろうな、と。
私は、中国を舞台にした物語は登場人物の名前がややこしいという、ただ一点のために敬遠しがちだったのですが…、なんだかもっともっと読んでみたくなってしまいました。それくらいに魅力的です、岡本好古という作家さん。
絵の中の殺人(奥田哲也)
ん〜、何だろう? 良くわからないのですが…。殺人方法…と、いうかトリックは、まぁわかるのですが。その動機とか、人間関係とかが…。探偵役の輝彦の推理も、行きつ戻りつで私にはわかりにくし。ただ、(当たり前ではあるけれど)、巻末の解説では絶賛されていたので、単に私には合わなかっただけかも。
椿山(乙川優三郎)
収録作品
ゆすらうめ
白い月
花の顔
椿山
一生懸命に生きていてもどうにもならないことってあるよね、としんみり感じる短編編集。それでも、その全てのラストに希望を残すあたりが、乙川作品でもあります。その希望は、はたから見たら諦念や絶望にしか見えなくても、本人とっては確かに希望。どうか、登場人物たちが、その希望にすがって一日を生き延びられますようにと、願わずにはいられません。
私は「ゆすらうめ」が一押し。おたかの潔さが良いのです。
甘露梅(宇江佐真理)
収録作品
仲ノ町・夜桜
甘露梅
夏しぐれ
後の月
くくり猿
仮宅・雪景色
夫に先立たれたおとせが、吉原で住み込みのお針子として暮らした一年を追った連続短編。吉原での恋模様人間模様を中心に、おとせ自身の恋愛も描かれています。遊女たちの華やかで切なく悲しい恋模様と、36歳のおとせと50歳を過ぎた凧助のじんわりとした恋模様。
おとせって、実際に近所に住んでいたら、おせっかいすぎてうるさいタイプなのでしょうけど、その情に触れていたいと思う人も、特に吉原という場所にはいるのかもしれません。そんなおとせの情に惹かれる人と、疎む人、両方が登場するあたり説得力があります。私は…距離を置いて付き合いたいタイプかな。
おなごたちの恋唄(今井美沙子)
収録作品
石蕗の花
サヨ姉さんの初恋
ふたつの結婚
サト姉の忘れがたみ
しょんべん泥棒
しょうとり神の詐欺師
長崎・五島列島を舞台にした短編集。因習と、隠れキリシタンの流れをくむ頑迷なキリスト教徒、そして、非キリスト教徒。女性が恋をするにはあまりにも厳しい条件の下、それでも逞しく強く思いを貫こうとするおなごたちの姿が印象的な一冊です。
一神教信仰における私のスタンスは、「ふたつの結婚」の国夫と全く同じです。まぁ、信仰に限らず、生活スタイル全般において、ですけど。自分の信じる正義と、他人にとっての正義は違うものであるかもしれない、ってことを必ず心に留めておくことって、大切ですよね。
冬のはなびら(伊集院静)
収録作品
雨あがり
夏草
遅い春
陽だまりの木
春泥
冬のはなびら
じんわりと温かい気持ちに溢れた短編集。不器用で一途な主人公たちを、その主人公たちを支える周囲の人びとの温かさにジーンとしてしまいます。
定年を迎えた男性が過去を振り返り、明日を見つける物語「陽だまりの木」が一押しです。
レインツリーの国(有川浩)
図書館戦争シリーズ「図書館内乱」収録の「恋の障害」に登場する架空の小説を実在化(?)した作品。これを小牧が毬江を勧めたのかぁ…と思うと、なかなか感慨深いものがあります。自分たちそのもののような物語を、よくもまぁ…なんて(笑)。小牧は、毬江の中にひとみを見たのでしょうね。
ストレートなラブストーリーですが、女性が聴覚障害者であることが特徴といえば特徴だし、この設定があればこそ、の一冊でもあります。読了後、一番の収穫は、聴覚障害について、ほんのわずかではありますが知識が増えたこと。社会の大多数を占める健常者の一員としての驕りであるのは重々承知ではありますが、発信してくれなければわからないことですから。伸の言うように、補聴器が見える方がわかりやすいのです。私たちは健常であるがゆえに無知です。どうか、「こんなこと当たり前」なんて言わずに、一つ一つ教えてください。
ラブコメ今昔(有川浩)
収録作品
ラブコメ今昔
軍事とオタクと彼
広報官、走る!
青い衝撃
秘め事
ダンディ・ライオン〜またはラブコメ今昔イマドキ編
「クジラの彼」に続く、国防ラブコメ短編集。
各編に散りばめられた綿密な取材の結果のあれこれも楽しい一冊です。ベタ甘がウリではありますが、どの話も、かなり女性側に都合よく描かれているのが特徴、かな。日夜国防に励んでくださっている皆さん、そんなにご自分の職業が恋愛の障害になるとは思わなくてもいいのでは…、などとも思ったりも。
…久しぶりに基地祭に行ってみたくなったな。結構、面白いんですよね〜。
町長選挙(奥田英朗)
収録作品
オーナー
アンポンマン
カリスマ稼業
町長選挙
精神科医・伊良部シリーズ。
今回は、表題作以外は明らかに実在のモデルがあるようです。実在モデルさんのキャラ&インパクトも強烈ならば、登場するキャラクターとしても超強烈。故に、伊良部先生がかなりかすむ結果になっているようです。ラストの「町長選挙」も伊良部先生よりもマユミの方が目立っているし。いや、その前に、マユミのキャラに変化アリ、ですよね? こんなに活動的(?)なマユミ…。友達のいるマユミ…。正義の鉄槌を下すマユミ…。そうか、マユミってこういう人だったのかー。
まぁ、伊良部先生とマユミ的には、この一冊は番外編的なものなのでしょうね。モデルありの三編は、誰もが「あぁ、あの人ね」と即座にわかってしまうだけあって、結末もきれいにまとめられています。あそこまで、しっかりとモデルが判明してしまうと、ヘタなことはできないよね^^;
クジラの彼(有川浩)
収録作品
クジラの彼
ロールアウト
国防レンアイ
有能な彼女
脱柵エレジー
ファイターパイロットの君
自衛隊三部作のスピンアウトを含む、‘国防レンアイ’ベタ甘ラブロマ短編集。読んでいて、こそばゆくもなりますが、たまにはこういうタイプを楽しむのも良いモノです。
「クジラの彼」・「有能な彼女」は「海の底」の、ファイターパイロットの君」は「空の中」のスピンアウト。
個人的には、「脱柵エレジー」が好き。そして、「ロールアウト」での、男性の小用に対する感覚に驚愕!
塩の街(有川浩)
収録作品
塩の街
塩の街、その後
自衛隊三部作、陸自編。&著者のデビュー作。
読み終えてからデビュー作であることを知り、納得。正直言って、「巧い」とは言えない作品です。が、とにかく勢いは十二分。加えて、自衛隊三部作のうち他二作と比べると、確実に‘自衛隊’比重が軽くなっています。同時に、甘さも軽め。理詰めも不完全燃焼気味。「あとがき」で著者本人も記しているように、多分に‘ライトノベルズ’です。その点もあって、‘大人のライトノベルズ’を期待していると少々物足りない、という結果になってしまいます。それでも、この作品が、有川作品の原点であるという点においては読んでおくべき一冊だと思います。この作品があったからこそ、ですから!
純平、考え直せ(奥田英朗)
下っ端ヤクザの純平が、鉄砲玉指名を受け、それを実行に移すまでの三日間を描いたもの。
とにかく、登場人物がそれぞれにリアル。同じ下っ端仲間の信也、成り行きで関わることとなった西尾のジイサン、インチキ通販会社の派遣社員の加奈、コインランドリーで客待ちをするオカマのゴロー、純平が心酔しているものの、どこか胡散臭い北島、田舎で水商売を続ける母親、加奈の書きこんだネット掲示板の住人たち、歌舞伎町でそれぞれに生きている人間たち…etcetc。タイトル通り、それらすべての人間が、意識的無意識的には関わらず、純平に対して「それで良いの?」と問いかけてはいるものの、純平の中に根強く居座る自己軽視にあってはツルツルと滑り落ちるばかり。「バカだなぁ」と思いながらも、受け入れてしまいそうなのは、純平の持つ愛嬌のせいなのでしょうね。ほんっとバカなんですよね、純平って。でも、憎めないんだな。
阪急電車(有川浩)
収録作品
宝塚駅
宝塚南口駅
逆瀬川駅
小林駅
仁川駅
甲東園駅
門戸厄神駅
西宮北口駅
そして、折り返し。
西宮北口駅
門戸厄神駅
甲東園駅
仁川駅
小林駅
逆瀬川駅
宝塚南口駅
宝塚駅
関西の私鉄「阪急電鉄」を舞台にした連作短編。
大きな事件が起きるわけでもなく、事故が起きるわけでもありません。普通の人びとが普通の日常で出会う小さな出来事が綴られている作品です。大きな事件でも事故でもないけれど、当事者にしてみれば大きな転換点になるような小さな出来事。いわゆる「袖擦り合うも…」に満たされた一冊です。お薦め!
空中ブランコ(奥田英朗)
収録作品
空中ブランコ
ハリネズミ
義父のヅラ
ホットコーナー
女流作家
第131回直木賞受賞作品。
精神科医・伊良部シリーズ。
シリーズ前作「イン・ザ・プール」よりも、患者の症状がより身近になっています。どれもこれも、本当にありそう! で、伊良部先生の癒しキャラ(?)もよりはっきりしてきたかな、と。前作の方が、得体のしれない感じがあったような。
よって、今回の「空中ブランコ」は、はっきりと著者の狙う的が見えている一冊になっていると思います。だからといって、そこにあざとさとかいやらしさを感じるかと言えば、…断じて否、なのが不思議なんですけど。とにかく、本書を読むことそのものがカウンセリングに成り代わりそうでもあります。肩の力を抜いて、自分を外側から眺めて、気持ちをほぐすこと。伊良部先生に、生活を引っ掻き回されるのはゴメンですが、その記録を読むのは大歓迎です!
お気に入りは「義父のヅラ」。
天国までの百マイル(浅田次郎)
泣かせてくれますねぇ(笑)。あまりにも出来過ぎだし、お決まりなんだけど、まんまと術中に嵌ってしまうのが浅田作品の罠ですからね。人間、何かに躓いている時は、人の情けが身に染みるもの。本当に、そこをピンポイントで突いてくるのだから、ちょっとズルイ。
「世の中に、初めから与えられている結果なんてないんだな。世の中の善意をかき集めて、俺は百マイルを走った。何かひとつでも欠けたら、すべてはご破算だった。〜中略〜何もかもガソリンに代えて、俺は天国までの百マイルを走った。何かがひとつでも欠けたら、だめだったんだ。」
オリンピックの身代金(奥田英朗)
東京オリンピックに向けて一直線に走る日本と、オリンピック開催の人柱とされる出稼ぎ労働者。東大ブランドの大きさと、日常のマナーを学ぶ余裕すらない極貧の農婦。富める者と貧しき者。支配する者と搾取される者。
秋田の寒村出身の東大生・国男が、出稼ぎ労働者であった兄の理不尽な死の直面し、そのいびつな日本の姿に気付いたとき…。
ダイナマイトを武器にオリンピックの身代金八千万円を要求する国男サイドと、国の威信をかけて国男を追う警視庁サイドの話が、時間を行きつ戻りつしながら交互に描かれていく様には、否応なしに心拍数激増です。両者のわずかなタイムラグが、不思議な臨場感を呼ぶのですよね。このあたりさすがは奥田英朗。
歌舞伎役者のような優男で頭脳明晰な国男が、兄の追体験をしていくうちにズルズルと裏社会に嵌りこんでいく様子は、恐ろしさと共にどこか爽快感をも感じてしまいました。そして、読み手である私の爽快感とは裏腹に、醒めきった静かな佇まいをまとう国男の存在の不思議。
裏社会に生きる村田の「今は多少不公平でも石を高く積み上げる時期なのとちがうか。横に積むのはもう少し先だ。」という、妙な達観が印象的。
無理(奥田英朗)
「邪魔」、「最悪」と同シリーズ(?)。ほんの少しの歪みと、ほんの少しの出来心が、人生をどんどんと狂わせていき、最終的にはどうにもならないまま真っ逆さまに落ちていく人々の様子が描かれています。シリーズ中、最も無理があるのが、この「無理」。ほとんど、著者のお遊びなんじゃないかと言うくらいに、どうしようもなくズルズルと飲み込まれていく人々の様子。…ホント、ムリ^^; 終わり方も、どうしようもなくムリ^^; 何しろ、何一つ解決しないばかりか、今後、ますますややこしい状況になるのがわかる結末ですから! こうなってくると、「ゆめの市には負のエネルギーを求める未確認生物が生息していた!!」くらいの裏設定があっても驚きませんよ、私は!! 整合性にこだわらず、「あ〜あ」と思いながらも楽しめる方にはお勧めです。真剣に考えるとバカらしくなりますけどね^m^
家日和(奥田英朗)
収録作品
サニーデイ
ここが青山
家においでよ
グレープフルーツ・モンスター
夫とカーテン
妻と玄米御飯
「ガール」や「マドンナ」と同系列の短編集。‘家’の中のささやかで当たり前の日常を、ユーモアたっぷり&ピリリとシニカルに描いてあります。「あぁ、あるなぁ。そういうこと」や「あり得る!!」がザクザク詰まっているあたり、非常に共感を覚えやすいかと。声を上げて笑ったり、奥歯を噛みしめて嗚咽を堪えたり…ではなく、クスリ、ニヤリ、プププな方向でね。
私のお気に入りは「ここが青山」。しゃちほこばって大上段に構えたジェンダーではなく、ごく自然に本質的な個人の適性を描き出してあるところが◎なのです。裕輔と厚子の自然体な様子もすごく心地よいし。思いやりも型に嵌り過ぎると、迷惑通り過ぎてお笑いにしかならないっていうのもポイントですねー(笑)。
「妻と玄米御飯」も、相当笑えます。これは、著者自身の話なのかな。
空の中(有川浩)
自衛隊三部作。空自編。
これは…良いですねぇ。有川作品にありがちなドタバタ要素が控えめになっていて、じっくりと丁寧に登場人物の心情がつづられています。登場‘人物’ではないけれど、フェイクやディックの心情(?)描写もステキです。つたない言葉で、遠回しな言葉で、訥々と綴られる‘白鯨’たちの気持ち。正直なところ、‘人間’よりも‘白鯨’に泣かされましたから! 極めて高度な知的生物であるにも関わらず、感情面ではひたすらに純粋。‘嘘’という概念を持たない彼らの真っ直ぐな問いかけは、真っ直ぐであるがために‘人間’にとってはとてもとても残酷な問いかけでもあるのですよね。フェイクの「瞬・の・喜ぶ・を・する」なんて、あまりにも計算が無さすぎて(というか、‘計算’なんてことフェイクは知らないんだよね)、ギュッと抱きしめて泣きたい気分になってしまいましたよ。
宮じいのキャラクターも大好き。朴訥な飾らない言葉で本当のことをてらわずに口にする人。何と言ったって「仁淀の神様」なんだものね。「間違えたことは間違えたこととして、そのまま受け入れること」、「間違えた人を許すこと」。心に響きました。
ララピポ(奥田英朗)
収録作品
What A Fool Believes
Get Up, Stand Up
Light My Fire
Gimmie Shelter
I Shall Be Released
Good Vibrations
性に溺れてグズグズと生活を壊していく人々を描いた連続短編。
まさに悲喜劇。主人公たちはだれもがどうしようもなく自堕落で主体性がないくせに、‘性行動’だけには積極的。悲しいんだか可笑しいんだか良くわからないけれど、まぁイイやという、いい加減さに満ち満ちた一冊でもあります。
「ララピポ」=「a lot of people」。そう、世の中にはたくさんの人がいるんですよね。たくさんの人の中には、どうしようもない人だっているんです。もうそれは仕方のないことなんです。…みたいな(笑)。ね。
電車内読書には要注意です。どのページにもR指定の文章が延々と^^; 私は、細ぉ〜く開いて、隙間から読みました。
ガール(奥田英朗)
収録作品
ヒロくん
マンション
ガール
ワーキング・マザー
ひと回り
読みながら、「奥田英朗って男性だよね?」と何度も自問してしまいました。それくらいに女性心理を見事に突いた短編集。30代のOLたちが、彼女たちなりの武器でそれぞれの難敵に立ち向かう姿は、まさに痛快としか言えません! 痛快としか言えないと同時に、同じ女性として「うわー、これはイタイわ^^;」とも思ってしまうわけです。それでも、きちんとそれなりの解決を得て、次の日からはまたしっかりと顔を上げて行く道を進む彼女たちの逞しさとかわいらしさ。同じ女性として、誇らしくも思ってしまうわけです。
が、これを書いたのって男性なんだよね、ちょっとフクザツ。
サウスバウンド 上・下(奥田英朗)
自分に関わりのない話と割り切った上でならば、「すっごくおもしろかったー!!」と素直に言える作品です。が、現実に一郎のような人間がいたとしたら、絶対に関わりたくはありませんっっ! まぁ、そのあたり、一郎本人もわかっているらしいので…、正義を言い立てることで満足している偽善者たちよりは、各段にマシな存在ではあるのでしょうが。
上巻の東京編も、下巻の沖縄編も、問題は山積のまま。よ〜く考えてみれば、何一つ解決していないばかりか、余計にややこしくなったまま物語は終わっています。問題は問題のままではありますが、それに対する人間の気持ちが大きく変わっているのですよね。だから、読了後にこんなにスッキリとした気持ちになれるのでしょうね。
あ、一郎だけは変わっていないかな。パワーアップしたという方向では変わったけれど。さくらはおそらく本来のさくらに戻ったのだろうし、洋子は大人として両親を見つめ受け入れる覚悟を持ったのだろうし、二郎は子どもから脱し、‘自分の基準’で両親を評価し、行動することができるようになったし、桃子は‘まるごと受け入れる’という子どもの特権をフル活用して逞しくなったのでしょう。
そして、上巻ではどうしても好きになれなかった一郎を、読了後には「仕方のない男だな」と思いつつも憎めなくなっている私も、‘変わった’一人なんだろうな。
邪魔 上・下(奥田英朗)
日常に潜む些細な出来事がきっかけとなって、人生が狂っていく人間たちの様子を描いた作品。「最悪」とよく似た作りではあります。ありますが、それぞれの‘きっかけ’が「確かにあるかもしれない」と思ってしまうがために、やはり引きこまれしまいますね。
一応、九野と恭子の二人(裕輔も加えて三人?)が主人公なのでしょうが、彼らに関わり合う人びとの歯車も否応なく狂ってしまうのが恐ろしいところ。それぞれが「なかったこと」にしてしまいたい出来事を抱え、「なかったこと」にするために「邪魔」を排除しようとしてどんどんと道を外していく様子は凄まじいほどです。しかも、エスカレートの仕方が半端じゃない! もちろん、それに関わり巻き込まれていく人々の混乱ぶりも大変なもの。この物語には描かれてはいないけれど、関わり巻き込まれた人々も、やはりそれぞれに「こんなはずじゃなかった」な状態に直面し、どうにかしようとあがいているのでしょうね。まさに「邪魔」の連鎖。そして、それは、1時間後の私の姿なのかもしれません…。いつ、どこで、なにがあるのかわからないのが人生、なんでしょうね。願わくば、平穏無事な生活に浸っていられますように。
海の底(有川浩)
自衛隊三部作、海自編。
横須賀を巨大ザリガニ群が襲う!!という、三流特撮モノ的なトンデモ設定から始まる物語ですが…、途中からは、そのトンデモ設定さえがトンデモとは思えなくなるほどのリアリティにグイグイ惹きこまれてしまいました。キャラ設定や状況設定は、著者別作「図書館戦争」に酷似しているものの、これも気にならなくなってしまうのは、著者の筆力と、「そういう国」である日本を諦めモードで眺めている自分の姿勢のせいでしょう。
解説によると、著者は海上幕僚監部広報室に電話して、「横須賀基地が怪獣に襲われたとしたら自衛隊は銃を撃ちますか」と質問し、相手に大爆笑されたそうです。こういう、‘トンデモ’に大真面目に取り組む姿勢は、本書の主人公・夏木&冬原に通じるものがありますよね。だからこそのあの生き生きとした描写なのでしょうね。
女性作家ならではの、望の‘あのシーン’は、男性読者にしっかりと読んでいただきたいところ。三月の震災でも女性たちがとれほど苦労したかは、想像に難くないですからね。‘何か起こった時’の対策に含めておいていただければ。
個人的には、15人分の食事作りを一手に引き受ける技量を持ったスーパー中学生・茂久くんを息子に欲しい!!
真夜中のマーチ(奥田英朗)
コメディタッチのドタバタクライムストーリー…かな? シリアスになるかと思わせてコメディにしてしまうのに、最後にはちゃんと計画を成功させちゃうという、なんともお手軽なクライムストーリーです(笑)。一体、いつになったら目的を達成できるの!?的なハラハラ感も楽しめるし、ジェットコースターっぽい展開も楽しいものです。ラストの、「その後」のあまりにも「普通」な三人もある意味一興。
